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仙台高等裁判所 昭和26年(ネ)80号 判決

控訴人 被告 木幡村議会 代表者 伊藤真事

訴訟代理人 遠藤一

被控訴人 原告 丹治亀吉

訴訟代理人 田村政芳 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張は控訴代理人において、昭和二十四年七月二十五日当時の控訴人村議会の議員全員はその任期を満了し、昭和二十六年四月二十三日控訴人村議会議員の総選挙が行われ、被控訴人も再び控訴人村議会議員に当選したのであるから、被控訴人は本訴を維持する利益がないと述べ、被控訴代理人において控訴人の右主張のように昭和二十四年七月二十五日当時の控訴人村議会の議員全員が任期満了しその主張のように総選挙が行われて控訴人が再び控訴人村議会の議員に当選したことは認める。しかし本件控訴人村議会の除名決議を取消すことは、被控訴人の名誉を回復するため及び被控訴人が右改選前の議員としての報酬を請求するために役立つのであるから尚本訴を維持する利益があると述べた外事実上の主張は原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

証拠として、被控訴人代理人において、甲第一、二号証、第三号証の一乃至四、第四号証の一、二、第五号証(但し第五号証は写)を提出し、原審証人郷保清人、丹治芳治、菅野政見、当審証人関四郎右エ門の証言、原審における被控訴人本人訊問の結果を援用し乙各号証の成立を認め、控訴代理人において、乙第一乃至第九号証(但し第二、六号証は各一乃至三)原審証人安達智元、武藤利正、斎藤正春、斎藤里治の証言を援用し、甲第一号証、第四号証の一、二の成立並に第五号証の原本の存在及びその成立を認め、第二号証第三号証の一乃至四は知らない、その他の甲各号証の成立を認めると答えた。

理由

先づ被控訴人が本訴を維持する利益があるかどうかを考察することにする。控訴人村議会が被控訴人を除名する旨の本件議決をしたのは昭和二十四年七月二十五日の会議でありその後控訴人村議会議員の任期満了のため昭和二十六年四月二十三日総選挙が行われ被控訴人が再選されたことは当事者間に争のないところであるから、ことを村議会議員たる資格回復の点にのみ限定してみるならば、被控訴人が前示のように再選された今日本訴を維持する利益はないように一応考えられる。しかし地方自治法第二百三条及び成立に争がない甲第四号証の一、二によつて知り得る木幡村職員費用弁償額報酬額並に支給条例中改正条例の件の規定に徴すると、控訴人村議会の議員は単なる実費弁償を受けるのではなく年間定額の報酬を受ける権利あることが明かであるから、この一事から見ても被控訴人において本訴を維持する利益がないものということはできない。従つて右の点に関する控訴人の抗弁は理由がない。

よつて本案につき判断する。被控訴人が控訴人村議会の議員であり且つ議長であつたこと、控訴人村議会が昭和二十四年七月二十五日の会議において被控訴人を懲罰に付する緊急動議を採り上げ除名の議決をしたこと及びこの議決において控訴人村議会が被控訴人を除名する事由として挙げた被控訴人の行為の中に第一、昭和二十三年十一月二十二日の控訴人村議会の会議において被控訴人が議長として自ら村長不信任の動議を提出し且つ村長に対し退場を求めた行為(被控訴人挙示の(四)、(五)の事実、控訴人挙示の(五)の事実)第二、昭和二十四年一月二十八日の控訴人村議会の会議において被控訴人が一議員に対し退場を命じた行為(被控訴人挙示の(一)の事実、控訴人挙示の(一)の事実)第三、同年三月二十六日開会の控訴人村議会の同日における会議において被控訴人が村長提出の議案の審議を延ばし散会した行為(被控訴人の挙示の(二)の事実、控訴人挙示の(二)の事実)第四、右議会の第二日目の会議(同月二十八日)において被控訴人が傍聴席にいた警官に対し一議員を退場せしめよと要求した行為(被控訴人挙示の(三)の(2) の事実、控訴人挙示の(三)の事実)第五、右会議(第二日目)において他の議員から被控訴人の一身上の議事に関し退場を要求せられ右が被控訴人に対する懲罰動議に関するものであることを明かにされても尚被控訴人が退場しなかつた行為(被控訴人挙示の(三)の(3) (4) の事実、控訴人挙示の(四)の事実)第六、被控訴人が控訴人村議会の議長名を以て昭和二十四年一月二十八日附で木幡村選挙管理委員会に対し当時の木幡村長武藤利正に公職被選挙権なき旨の決定申請書を提出した行為(被控訴人挙示の(六)の事実、控訴人挙示の(六)の事実)以上の事実を挙げていることは当事者間に争なく、又成立に争のない乙第二号証の二、第六号証の一乃至三、原審証人安達智元斎藤正春の証言を綜合すると控訴人村議会の挙げた除名事由は以上の外第七、前示第四掲記の会議において被控訴人が選挙管理委員会に対する調査書提出問題等で他の議案の審議を防害した行為(被控訴人挙示の(三)の(1) の事実)第八、昭和二十四年三月二十九日の控訴人村議会の会議における同議会の議決に対し被控訴人が法務庁に訴願した行為(被控訴人挙示の(三)の(5) の事実)を挙げていることが判る。控訴人は本件除名事由としては昭和二十四年七月二十五日の会議(本件除名を議決した会議)における被控訴人の言動のみでも充分足りると主張するけれども、前示乙第六号証の一乃至三その他控訴人提出援用の全立証を以てしても右七月二十五日の会議における被控訴人の言動を以て本件懲罰の事由としたものと認めることはできない。

しかして前示乙第六号証の一、二、三によれば、昭和二十四年七月二十五日の村議会は昭和二十四年第五回定例会として同日午前九時に招集され、午前九時三十分に開会、午後三時十分に閉会されたものであるが、被控訴人を懲罰に付する緊急動議は同日開会劈頭に上程され、懲罰委員会の審議を経て、除名の決議がなされるに至つたものであることを認め得る。然るに以上懲罰事由のうち、第一乃至第五、及び第七は本件懲罰の議決をした昭和二十四年七月二十五日の控訴人村議会より前の控訴人村議会の会議における被控訴人の行為に関し、第八は控訴人村議会の会議外における被控訴人の行為に関するものであることは明かであり、又第六の被控訴人の行為は控訴人村議会の議決に基かないものであることは成立に争のない乙第一号証、原審証人斎藤里治の証言に徴し明かであるから右は第八と同様控訴人村議会の会議外における被控訴人の行為に関するものといわねばならない。

そこで先づ右のように村議会が前の議会の会議中における議員の行為に関し後の議会において懲罰を科し得るかどうかの点につき考察するに、国会法第六十八条には会期中に議決に至らなかつた事件は後会に継続しない(同条但書の例外の場合を除いて)と規定し、地方自治法第百十九条も同様に規定しいわゆる会期不継続の原則を採用している。そして国会法第百二十一条第三項は懲罰動議は事犯があつてから三日以内に提出することとしているところから見ると国会法の下では議員に対する懲罰についても会期不継続の原則をとつているものとみなければならない。しかして地方自治法の前示第百十九条は国会法と同趣旨の下に規定されたものと解すべきであるから、地方自治法第百三十四条の懲罰についても亦会期不継続の原則が適用あるものと解すべきである。ただ地方自治法には普通地方公共団体の議会の懲罰権につき前示国会法のような懲罰動議の提出時期につき規定がないのはこれ等議会の会期は一般に短く殊に村議会の会期の如きは二、三日であるのを通常とするから特に規定するの要ないものとしたによるものと思われる。若し議会の議員に対する懲罰につき会期不継続の原則の適用がないものとするならば、此の点につき他になんら規定ない現行法の下では時間的制限がないことになり、一般の犯罪につき時効制度が設けられていることとの権衡を失することにもなる。

次に村議会が議員の議会外における行為に対し懲罰を科し得るかどうかの点につき考えるに、村議会の議員に対する懲罰権は村議会が会議内の秩序を維持する為め、議会の自律権に基き会議内における議員の非行に対しその議員に科するものと解すべきであつて、このことは地方自治法及び控訴人村議会々議規則(甲第一号証、乙第七号証)に徴しても明かである。

そうだとすると、控訴人村議会が昭和二十四年七月二十五日の控訴人村議会において、それより前の控訴人村議会の会議中における被控訴人の行為及び控訴人村議会の会議外の被控訴人の行為を事由として被控訴人を懲罰に附した本件議決は爾余の点につき判断をなすまでもなく違法であり取消しを免れない。

よつて右と同趣旨の原判決は正当で本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三百八十四条第九十五条第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判長判事 谷本仙一郎 判事 村木達夫 判事 小嶋弥作)

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